いやなおんな ブログ 絶対の大衆と一人の天才少年と少女 忍者ブログ
ブログです。
漫画描きたかったけど描けなかったから小説にしようとしたら、びっくりするほど物語になれなかった。

 少年は拍手喝采を浴び終わると、捌け始めた人の波に少女を探した。
 少年にとって、この世で最も心を許せる少女を探した。
「やあ」少年は言った。
「こんにちは」少女は言った。
 周囲から見ればそれぞれ、少年は雲の上の人、少女は路傍の石だった。
「きみのあたらしくつくったもの、相変わらずだね」少年は言った。
「そう」少女は言った。
 少年と少女は、同じ次元だった。
 人の価値に縛られない、けれど確実な程度の基準があるとすれば、同じくらい、高い高い場所に二人は居た。
 なんでも理解しあえた。
 なんでも話せる無二の親友や、素敵な恋人になれてもおかしくなかった。
 けど、なれなかった。
 他人という存在が、あったからだ。
「きみはわるくないよ」少女は言った。
 少年は何も言えなかった。
「きみはわるくなんかないよ」少女は言った。
 少年は何も言えなかった。
「始めの季節を一度に沢山売るのと同じだもの」少女は言った。
「……うん」少年は言った。
「だから、だれもわるくはないよ」少女は言った。
「みんながわるいんだよ」少年は言いたかった。
 一度、拍手喝采が届かない場所に二人で行きたいと、少年は思っていた。
 恋人たちは、そこに行きつくことがあるという。
 そこは、出口のない子宮のように、閉ざされて、還って、淀むだけの場所らしい。
 それは、死ぬのと同じらしい。
 つくることが出来る存在が行っていい場所ではない、そう、少年も少女も言い聞かせられていた。
「買った人が感じられるのが基本」少女は言った。
「買った人が触れられるのが基本」少年は言った。
「第二に、買った人が気持ちいいといい」少女は言った。
「なんで、確認してるの」少年は言った。
「きみが沢山の人に気に入られるのは、それでいいって、言ってた」少女は言った。
「可愛い意味だね」少年は言った。
 つくったものの価値は、全体の喝采を生むか生まないか、またその喝采の程度が絶対だった。
 たった一人が吠えたところで、全体が見向きもしなければ、その価値はないのと同じだった。
「わたしはきみのこと嫌いよ」少女は言った。
「知ってるよ」少年は言った。
「それも知ってる」少女は言った。
 二人がいくら同じ位置でも、お互いそう理解出来ていても、他人の決めた価値に最後まであらがうことは出来ない。
 それは単なる他人の決めた価値ではなく、絶対の価値だからだ。
 つくることが出来る存在というのはそういうものだと、二人は知っていた。
 逃げることなら出来る。
 閉ざされて、還って、淀めばいい。
 そこでお互いにだけ向けてつくりつづければいい。
 絶対の価値を失って。
 少女に失う覚悟は必要なく、少年に失わせる覚悟はあった。
 少年に失う覚悟はあったが、少女に失わせる覚悟はなかった。
 だから二人は、ただただ今を続けていた。
 いつか少年はしびれを切らして、閉ざされて、還って、淀もうとする道を選ぶだろう。
 そのとき少女も少年にだけ向けてつくりつづけるか、それとも全体に向けてつくりつづけることで少年を生かすか、それはまだわからない。

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くりえいたーさんや実在しない人に、『自分だけしっくり来ればいい』精神であだ名をつけることが多い。直接関わらないと逆に気安い呼び方の方が距離が遠く感じるような、作品越しとかだと近しく感じるような、そんな感じ。
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